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大阪地方裁判所 昭和45年(わ)564号 判決 1973年3月09日

本籍

西宮市宮西町三五番地

住居

大阪市淀川区新高北通一丁目一一番地 日誠住宅内

会社役員

丸野桂次郎

明治三八年一一月三〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき当裁判所は検察官忠海弘一出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人を徴役五月および罰金三五〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金三万円を一日に換算した期間(端数は一日に計算する。)被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から二年間右徴役刑の執行を猶予する。訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪市東淀川区新高北通一丁目一一番地においてテレビ通信社の名称で業界新聞テレビ通信を発行していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一、昭和四一年度における所得金額は一〇、三四二、一二四円これに対する所得税額は四、一七九、三〇〇円であるのに、正規の会計帳簿を記載せず広告料収入を得意先から銀行口座に振込みを受けるにつきその一部を他人名義として自己の営業でないように仮装し、且つ右広告料収入によって得た資金を架空名義の預金口座に預入して秘匿する等の不正行為により右所得金額を秘匿した上、右所得税申告期限である昭和四二年三月一五日までに所得税確定申告書を所轄税務署長に提出せず、よって、同年度分の所得税四、一七九、三〇〇円を免れた、

第二、昭和四二年度における所得金額は一四、三九〇、二九六円これに対する所得税額は六、三七七、九〇〇円であるのに、前同様の不正行為により右所得全額を秘匿した上、右所得税申告期限である昭和四三年三月一五日までに所得税確定申告書を所轄税務署長に提出せず、よって、同年度分の所得税六、三七七、九〇〇円を免れた、

第三、昭和四三年度における所得金額は一四、六八一、八一四円これに対する所得税額は六、五一八、〇〇〇円であるのに、前同様の不正行為により右所得全額を秘匿した上、右所得税申告期限である昭和四四年三月一五日までに所得税確定申告書を所轄税務署長に提出せず、よって、同年度分の所得税六、五一八、〇〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示第一の事実について、

一、サンエー電機株式会社、DXアンテナ株式会社作成の各照会回答書

判示第一、第二の各事実について、

一、松下電工株式会社、大阪市東淀川区長作成の各照会回答書

判示第一、第三の各事実について、

一、中田鈴雄(昭和四五年一月一六日付)、市川さよ子の収税官吏に対する各質問てん末書

一、押収してある家屋賃貸借契約証書一通(昭和四六年押第三一三号の一八)

判示第二、第三の各事実について、

一、宮尾賢郎、遠藤保之作成の各確認書

一、三国電話局、十三信用金庫十三本町支店作成の各照会回答書

判示第三の事実について

一、大口信吾、成瀬一二、橋本孝、高見了千、勝見有造(昭和四四年一二月一七日)作成の各確認書

一、押収してある普通預金通帳三冊(昭和四六年押第三一三号の二から四)、領収書二綴(同押号の六と一九)、総勘定元帳二冊(同押号の九)、手帳一冊(同押号の一四)、指定金銭信託収益計算書一綴(同押号の一六)、定期預金利息計算書六枚(同押号の一七)、メモ一綴(同押号の二一)

判示全事実について、

一、証人林彭の当公判廷における供述

一、熊本重文、古玉寿郎、田中俊吉、長尾孝一、内村貞夫、加藤勝蔵、朝田栄、山口順、谷浦昭二、仲本幸吉、長谷川芳徳作成の各確認書

一、広津英夫、大西清一作成の各供述書

一、大和銀行梅田支店、中央信託銀行大阪支店証券代行部(四通)、住友信託銀行証券代行部(二通)、安田信託銀行証券代行部、三井信託銀行証券代行部、東京証券代行株式会社、三菱電気株式会社、シャープ株式会社総務部、新日本電気株式会社、株式会社三洋社、三和銀行十三支店作成の各照会回答書

一、広津英夫、岡田秀三(二通)、中田鈴雄(昭和四五年一一月五日付)の収税官吏に対する各質問てん末書

一、収税官吏作成の昭和四五年一月三〇日付、同月三一日付の各調査てん末書

一、押収してある普通預金通帳三冊(昭和四六年押第三一三号の一と五)、総勘定元帳二冊(同押号の七)、手形受払帳一冊(同押号の八)、控簿一綴(同押号の一〇)、受手台帳一綴(同押号の一一)、支払手形帳一綴(同押号の一二)、支払手形記入帳一綴(同押号の一三)、家屋賃貸借契約証一枚(同押号の一五)、株式関係メモ雑書一綴(同押号の二〇)、印鑑一六個(同押号の二二と二三)、指定金銭信託証書コピー七枚(同押号の二四)

(所得額の認定-弁護人の経費主張に対する判断)

一、弁護人は、「検察官の主張する所得金額は、被告人の営業に要した経費を必要最少限度以下に見積らないと生じないものであって、右営業が如何に小規模といえかような少額の経費で賄いうると考えるのは非常識な立論であって、よろしく被告人の営業の法人成り後の経費を対照の上、相当の経費を認定すべきである。」と主張する。

二、よって、右主張に沿い本件所得金額の相当性に判断するに、検察官の主張する公訴事実上の各所得金額はいわゆる財産計算法(B/S立証)によるものであるところ、被告人の事業上の収入(広告料収入)が

昭和四一年度分 一五、五三九、〇〇〇円

昭和四二年度分 一九、三七一、〇〇〇円

昭和四三年度分 二〇、〇二七、〇〇〇円

であることも記録中の証拠書類(調査てん末書等)により認めうるところ、右収入金から検察官主張の所得金額(当年利益金)を控除した残額は検察官がいわゆる営業経費と認めた金額となり、それは、

昭和四一年度分 二、九八四、四〇七円

昭和四二年度分 二、四一六、二八〇円

昭和四三年度分 三、五六七、二六一円

となること計数上明白である。

ところで、右経費中には別表番号2のとおりの従業員給料が含まれているが(これは調査てん末書等により認める)、これらを右経費から控除するとき残額は毎年およそ九四万円、七六万円および一七二万円となり、これは人件費を除いたいわゆる営業費というべきところ、その金額に比較するに広告料収入と対比してみても明らかなように毎年の右営業費は著しく不規則不均等であるのみならず、これらの金額をもって被告人の事業の営業費たる印刷費、通信発送費、取材活動上の交通費、交際費等の諸経費を支払い、税金や修繕費などを賄うことは後にのべる被告人の事業活動の程度や修繕費などを賄うことは後にのべる被告人の事業活動の程度やいわゆる法人成り後の経費の状況などからみて到底不可能であるとみるのが社会取引通念上相当と解される。

翻って、検察官主義の所得金額算出の基礎となった財産計算法について、その貸借対照表上登載される財産の抽出については、検察官は抽出した財産はすべて被告人の事業経営に関連したものばかりであって、その他の財産は一切抽出、混在させてはいないといい、その財産の純粋性を主張するようである。しかしながら、被告人は当時株式売買により相当の収入を得ていたことは記録上明白であるところ、これが株式の取得時期、取得価格、株式の異動状況(売買状況)や売買収支金の出納保管状況については必ずしも適格に主張立証されたとはいえないし、また被告人の有金に対する預金や利子などについても必ずしも充分な調査解明がなされたとは考え難く、これら預金口座や現金等が事業上のそれと混同した可能性は充分窺えるところであり、それを事業上の財産の増加に繋がり、延いては事業所得金の増大という結果をもたらしていること明白である。

三、以上のとおり一、二の点について検討してみても明らかなとおり、財産計算法による所得計算によると、被告人の事業所得を過大に認定している節が十分認められるし、今直ちにこれを是正する方法は見当らないが、被告人の広告料収入は前記のとおり確定でき、支出たる経費についても次に示すように被告人の事業規模などからみて合理的と目せられる数値が認定できるので、本件については財産計算法によらず、損益計算法(いわゆるP/L 立証)により所得(利益)の計算をすることとする。

そして、当裁判所は別表記載のとおり営業経費を認めたのであるが、その理由は次のとおりである。

(1)、印刷費については、押収してある控簿一綴(符号一〇)および調査てん末書(一月三一日付)により別表記載のとおり認めた。

(2)、給料については前述したとおりである。

(3)、旅費交通費および接待交際費については明白な客観的証拠は存しないが、全く不用とか軽少些細な金高と見積ることはその事業規模や取材活動からみて考えることはできない。証人山口三津男、同和田可一、同木野親之の各証人尋問調書、弁護人提出の新聞「テレビ通信、」被告人の供述書等によれば、被告人は自ら取材に当り、東京、群馬、鳥取などや大阪近在に出張して廻り、場合によりカメラマンを同行するなどして各メーカーの工場視察、担当責任者らとの会見等し、情報提供者との会食、品物の贈答等の約費を支出して取材するとともに広告料の収入を挙げていたものであって、被告人の事業規模、活動状況、広告料収入の程度などからすると、当時旅費交通費および交際接待費は(前者につき弁護人主張の市内出張費を含め)平均毎月各一〇万円従って年間一二〇万円と認定するのが相当である(ただし、昭和四一年度については、その収入の程度や物価指数等を考慮しこれを一〇〇万円と認めた)。

(4)、別表中の通信発送費は、いわゆる通信費と被告人発行の新聞の発送費の合計であるが、いずれも被告人の質問てん末書および収税官吏作成の調査てん末書(一月三一日付)等を綜合して認めた。

(5)、車両修繕費についても、被告人の質問てん末書および右の調査てん末書のほか長谷川芳徳、橋本孝作成の各確認書を綜合して認めた。

(6)、保険料については、昭和四三年度に金一七、九〇〇円の支出があったことを証する領収書(符号一九)があるので、そのとおり認定し、他の年度においても特段の反証なきかぎり同額の支出があったものと推認できるから、それぞれの保険料支出を認めた。

(7)、賃貸料(家賃)については仲本幸吉作成の確認書および被告人の質問てん末書により認めた。

(8)、公租公課もまた、収税官吏作成の調査てん末書(一月三一日付)などにより認めた。

(9)、取材調査費について考えるに、これは被告人が取材に当り要した雑費を指称するところ、前記被告人の取材状況や弁護人提出の決算報告書三通により認められる法人成り後の取材調査費の金高などを綜合して別表のとおり認めた。

(10)、減価償却費については、収税官吏作成の調査てん末書(一月三一日付)などにより認めた。

(11)、弁護人は、以上のほか福利厚生費、会議費、事務用品費、水道光熱費、書籍費、備品費を認めるべきであると主張するが、これらについて明白な証拠はなく、また金額的にも毎月毎日平均すればさして高額なものともなしがたいので、これらをその他の費用とともに雑費とし総括的に計算するのが妥当であると考えられる。被告人の事業規模や取材方法を考慮した場合これら雑費は概ね一日平均二〇〇〇昭位と看做するのが適当であり、毎月二五日の営業として一か年間六〇万円の雑費を要したと認めるのが相当である(ただし、旅費交通費などと同一の理由により昭和四一年分は五〇万円と認める)。

以上のとおりであって、これら経費を前記広告料収入から控除した残額(当年利益金)に配当所得、雑所得を加算した所得金額が、(一)昭和四一年度分一〇、三四二、一二四円、(二)昭和四二年度分一四、三九〇、二九六円、(三)昭和四三年度分一四、六八一、八一四円となること、およびこれら金額を税法にてらし計算した所得税額が順次(一)四、一七九、三〇〇円、(二)六、三七七、九〇〇円、(三)六、五一八、〇〇〇円となることは計数上明白であるので、判示のとおり認定した次第である。

(法令の適用)

被告の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項、一二〇条一項三号に該当するが、犯情により徴役刑および罰金刑を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるので、同法四七条、一〇条により最も犯情の重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期および同法四八条二項により各罰金額を合算した金額の各範囲内において被告人を徴役五月および罰金三五〇万円に処し、同法一八条を適用して右罰金を完納することができないときは金三万円を一日に換算した期間(端数は一日に計算する。)被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右徴役刑の執行を猶予し、なお刑事訴訟法一八一条一項本文により訴訟費用は全部被告人に負担させることとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 砂山一郎)

<省略>

※ 和数字の単位はいずれも「円」 以上

総所得金額および税額計算書

<省略>

脱税額計算書

41.1.1

41.12.31

丸野桂次郎

<省略>

42.1.1

42.12.31

<省略>

43.1.1

43.12.31

<省略>

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

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